焦-こがれ-

君のその手をとりたかった。

君のその微笑みをもっと目に焼き付けたかった。

でもそれは叶うわけがなくて。君は、一枚の羽根だったから。

手を伸ばせど届かない。身体を幾ら跳ねさせようと届かない。儚いその羽根は僕の目の前をあれよあれよと通り過ぎてゆく。届くはずの距離なのに、こんなにも届かない。この距離は近いのか遠いのか教えて、誰か。この手を伸ばして君に、その羽根に触れたい。儚い、小さな希望を抱いていた心に。

ずっと一緒にいてくれた。僕がどんなに遠い場所にいても君の存在は手紙で感じていた。近い場所にいれば君はいつも僕に話しかけてくれて、悲しみに溢れた孤独を吹き飛ばしてくれていた。どんな孤独も君がいれば平気だった。

せめてそのことは、その気持ちは伝えたかった。

僕の前で舞っていた羽根も孤独を感じていたのかもしれない。憂いのある様子で、静かに訪れる白く綺麗な、僕にとって一番大切だった存在。互いに孤独を癒していたのかもしれない...今ならそう感じる。

 

だんだんと薄れてゆく羽根の白。目を何度擦っても変わらない。目を擦っている間にもその白は薄れていった。消える...そう思った瞬間、小さな声が聞こえた。

 

“楽しかった。あなたのことは一生忘れないよ。...これからは、君を守ってあげる。”

 

 

視線を元に戻すとその白は、小さな羽根は消えていた。僕の瞳からは、一粒の雫が落ちた。

 

 

 

あれから、半年。

今でも不意に羽根を探してしまう。どれだけ大きな存在だったか思い知らされてなんだか苦しい。でも、不意に探してしまったとき、必ず追い風が吹く。きっと羽根の、“君”の力。僕より何倍も強くて、何倍も勇敢で、何倍も愛情のある小さな羽根。僕には届かなかったけれど、きっとどこかで誰かの手に落ちているのだろう。悲しく寂しいけれど、それが幸せだというのなら。それを、幸せと呼ぶなら。僕に手を伸ばす資格はない。

 

 

 

 

これを“恋に焦がれる”というのだろうか。

 

 

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