お久しぶりです。

「お久しぶりです。」

 

その言葉から始まる便箋。

そうか、そういやもう半年くらい連絡をとっていなかったっけ。私は私で、東京から大阪へ転勤していて住所なんて家族すら知らないんだ。なのに、何故彼女は私の住所を知っている?え、なんか普通に怖い。SNSに書いたことなんて最もないし、誰にも伝えていない住所だというのに。

彼女は千鶴。私の親友だ。中学の頃から毎日のように遊んでいたし、高校・大学も同じだった。彼女は今も東京で働いているはず。探偵でも仕込んでいる?あー、頭が痛くなってきた。一度寝よう。

 

着信音で目覚めると、スマートフォンの液晶に映されていたのは“千鶴”の文字。いや、タイミングもバッチリか。少しは心の整理をする時間をくれ。

ひとつ深呼吸して電話に出ると、以前遊んでいた頃のような楽しそうな声。私はこんなに動揺しているというのに、呑気なものだ。

 

「あ、もしもし優?手紙届いたかなーって確認の電話!」

「ねえ、なんで私の新しい住所知ってるの?」

「なんでって、引っ越してすぐLINEで教えてくれたじゃん!忘れてたの?」

「え・・・そうだったっけ。」

 

記憶を幾ら掘っても掘っても出てこないぞ。というか、なーんだ私の勘違いじゃん。千鶴が怖い人になるところだった。ごめん、許して千鶴。

 

「てか、なんで手紙なの?LINEとかでいいのに。趣味変わった?」

「酷いこと言うー。たまにはいいかなって思っただけ!お母さんも面白そうな反応してたし。」

「はは、そっか。」

 

千鶴のお母さんが笑ってる姿、容易に想像できる。できてしまうのが少し辛い。

少し笑って、仕事が残ってるからと電話を切った。流行りのリモートワークというやつ。それにしてもやたら古風で丁寧な手紙だな。正直、千鶴からの手紙とは思えない。こんなこと言ったらキレられるから口が裂けても言えないが。

拝啓。季節の挨拶。敬具。認めているのはペン筆だろうか。ボールペン講座でも受けたか?こんなに字が綺麗だった記憶はないぞ。ああ、気付けば悪口ばかりだな。親友だから許されるなんてことはない。やめておこう、自重。

読み進めていくと、確かに内容は千鶴と私しか知らないことばかり。千鶴が書いた手紙で間違いないようだ。それにしても不思議で仕方ない。さっきの電話も何もかも、本当に千鶴本人なのか?やっぱり怖くなってきたぞ。だけれど、読めど読めど2人の話ばかりだ。私は何を怪しんでいるのだろうか?もはや自分でもわからない。

返事を送ってみれば正解がわかるだろうか。

 

 

 

「拝啓。」